築70年の空き家の改修 多機能多拠点施設「せんつく本店」

東京都足立区千住地域の約10年間の空き家を改修した「せんつく」は、千住地域における多機能多拠点施設の1号店である。「せんつく」は空き家所有者と設計事務所で共同出資し、古民家複合施設として令和2年(2020)2月にオープンした。オープン以降、設計事務所によって直接運営され、「せんつく」における改修のプロセスや内容、日々の運営方式、定期的なイベントなどを地域の知見として公開・共有することで、千住地域の空き家利活用のモデルとなる物件に現在成長し、活動が継続している。

Photographs | © Ookura Hideki / Kurome Photo Studio

対象となる建築物は、北千住駅から徒歩13分程度に立地する。駅前の商業地域からも離れており、1棟貸しによる飲食店などでは事業が成立しない状況になることが想定され、改修後の用途や運営形態などの観点において新しいモデルが模索された。そこで、比較的大きめの住居であることや、多い部屋数を活かして、複数の業態が入居する複合施設として改修されて、令和4年(2022)時点では、1階に飲食店・整体、2階には、料理教室及び運営事務所が入居している。

「せんつく」は、千住の「千のひとが住む」からヒントを得て、「千(せん)のつくる(つく)が行き交う場所」として名付けられた。駅から離れて、千住の生活圏の中心に位置することから、千住の生活者に寄り添う活動を中心に進めている。複合であることから、入居者からその先にまた活動の広がりがあり、連関して、建物以上に活動が広がる仕組みである。ひとつの空き家の利活用事例でありながら、地域のモデルとなる活動やプロセスを広く伝えるための形であり、空き家発掘を「せんつく」を通して広げていくことが可能となった。

「せんつく」における主な改修は、外壁や断熱・耐震性能の向上、天井材等の既存状態を補修、各テナントの新規壁面や床材の交換などが挙げられ、必要最低限の改修とした。特に、共用部は既存の建物の素材感の良さをそのまま活用した。以上のような最小限の工事によって、工事費用の投資を極力少なくし、入居者のテナント料を下げることに成功した。その一方で、オープンから数年経過した現在では、段階的に改修を進めていく方針としており、テナントのニーズに応えるアップデートが可能な運営形態と言える。

各部屋の賃料を限りなく安くすることで、テナント入居者の活動が長期的な継続が可能となるために、事業費と所有者への家賃のバランス、所有者との共同出資、入居者への賃料などを詳細に検討した上で、全体の最適解を導いた。また、設計事務所の直接運営によって、施設や地域との関係を最大限に活用する場のデザインを持続的に実践している。

■建築概要
敷  地:東京都足立区千住寿
設計期間:2019年12月~2020年9月
工  期:2020年10月~2021年1月
従前用途:住居
改修用途:店舗・事務所・住居
構造規模:木造 地上2階
延床面積:125.38㎡
運  営:ARCO architects
施  工:川崎工務店
外構・家具デザイン:Sano Satoshi ,Takeuchi Mitsuko, co+re, Mori Yuki and co+labo