住居から醸造所付き店舗の用途変更「さかづきbrewing」

東京都足立区の北千住駅から徒歩5分程度に立地する約230㎡の鉄骨造の二世帯住宅から店舗・事務所へと改修した事例である。1階をビール醸造所、2階を客席及び店舗、3階を店舗用倉庫と事務所に改修を実現するために、既存建築物は、一般的な住宅の仕様であったため、躯体のみのスケルトンまで解体した上で、3階店舗による新規の竪穴区画・防火設備の設置、及び、基礎埋め戻し土の処分による軽量化・水平力の増大を想定した耐震補強など、建築基準法の遵守及び耐震性に関わる性能の向上を図った。その中で、醸造所付き店舗に相応しい工場らしさが存在するインテリアが求められた。

1階のインテリアは、丁寧なディテールを検討しながらも醸造所らしい工場のような内部空間を実現するために、鉄骨造の躯体現しやその他の床や壁の仕上げの粗雑さ、配管を隠蔽せずにインダストリアルな表現をテーマにインテリアをデザインした。また、1階のスタンドコーナ及び階段室は、建築基準法上のハードルをクリアした上で、ガラス越しに醸造所を眺めることが可能となる空間を実現し、ビール製造の雰囲気を感じながらビールを楽しめる店舗のコンセプトを体現する空間構成としている。加えて、1階から3階までの階段室においても同様に、鉄骨現しや内壁の仕上げ、手摺の構成や素材なども、仕上げすぎることに注意を払いながら、木質系の材料を素地で使用し、塗装系も質感が残る素材を選定した。
2階の客席部分は、まず、厨房区画及び厨房排気のルート、近隣環境への影響などを考慮しながら、客席数を最大限確保する平面計画とした。インテリアのデザインは、明るい雰囲気にしてほしいというクライアントの要望から、躯体現しにして天井高さを最大限確保しつつ、グレー系の塗装色の明度を場所によって変えることで、明るく落ち着いた店内をデザインしている。
 以上のように、醸造所付き店舗のインテリアにおいて、構造躯体である鉄骨造をデザイン要素に活用し、素地のまま採用された素材や隠蔽しない配管、醸造所らしさが感じられる空間構成に配慮し、仕上げすぎない未仕上げの工場的インテアリアを実現した事例と言える。

■建築概要
敷  地:東京都足立区千住1丁目
設計期間:2019年9月~2020年4月
工  期:2020年4月~2020年8月
従前用途:二世帯住宅
改修用途:店舗・事務所
構造規模:S造 地上3階
延床面積:230㎡
構造設計:鈴木健構造設計事務所
写      真:新澤一平