アート拠点の創出「取手の窓」

取手の窓

茨城県の南部に位置するJR取手駅から徒歩5分程度に立地する3階建てのテナントビルの1階の産婦人科からシェアオフィスへと改修した事例である。
平成25年(2013)-平成27年(2015)まで実施された国土交通省の「住宅団地型既存住宅流通促進モデル事業」を活用して、茨城県取手市のNPO団体である取手アートプロジェクトが中心となって進められた郊外型エリアデザインの取組みの一環で実現したシェアオフィス「取手の窓」である。このエリアデザインの取組みでは、1970年代以降に開発された取手市の井野団地及び戸頭団地を中心とした2エリアを事業区域として設定し、エリアの空き家調査などを実施し、空き家活用に向けたアーティストのアイディア公募やイベントなどを開催してきた。

「取手の窓」は、鉄筋コンクリート3階建ての空いていた1階の産婦人科をシェアオフィスに改修したプロジェクトであるが、まず、建物所有者から取手の街にクリエイティブな場をつくってほしいとの要望があった。加えて、床面積は約150㎡であり、テナントを一事業者貸しでは、規模や立地の条件から入居者を見つけることは難しいことが想定された。そこで、中央のシェアスペースと4つの個室から構成されるシェアオフィスを設計事務所から提案し、空間の分節によって個室の賃料を下げ、また、複数の入居者が空間をシェアすることによる創造性のある空間の運営が目指された。

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TORI-N-11茨城県取手市に新しい地域交流拠点となるシェアオフィスです。

TORI-G-01産婦人科の入っていたRC3階建ての1階部分に5つのテナントスペースとシェアスペースで構成されるシェアオフィスを提案しました。

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TORI-N-04取手の芸術家の拠点は不思議な窓や建具が存在しました。その日の天候や出会う人によって表情を豊かに変える窓です。芸術の街である取手の地域の拠点となるこの場所に取手の文脈を受け継いだ「取手の窓」というアイディアを提案しました。

TORI-N-13テナントスペースとシェアスペースの壁は閉鎖的な壁で仕切るのではなく、小窓が集まった巨大な窓で仕切られます。巨大な窓は、テナントとシェアスペースにひとの気分のように毎日表情を変え・移ろうインタラクティブな空間を生み出します。

TORI-N-10取手アート不動産の2号物件となります。このシェアオフィスに今後市内外からクリエイティブな活動がうまれ、地域を活性化させることを願います。

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具体的なデザインコンセプトとして、取手市の芸術家の拠点には、不思議な窓が多く存在していることに着想を得た。芸術家の拠点となる建築物は、住居の壁一面が外側に垂直に開き、屋根またはテーブルになり、そして、外部と一体化するような窓であった。これらの窓は、窓を介して芸術家と街がコミュニケーションを取るための重要な要素であった。この芸術家の窓のアイディアから着想を得て、様々な開き方をする「取手の窓」をシェアオフィスの空間の中核に挿入した。シャアスペースと個室を区画する「取手の窓」は、人の気分のように毎日表情を変え・移ろうインタラクティブな空間を作り出すことが期待された。

シェアスペースを区切る「取手の窓」は、72角の木材が組まれて軸組みを構成している。また、窓の蝶番は全て隠し蝶番とし、72角の木材に隠蔽されるディテールとした。加えて、木軸及び建具は、同色で塗装されることで、窓や壁面としての抽象度を高め、窓の開閉時における空間の質が最大限に変化することが目指された。
内装の素材は、産婦人科で使用されていた既存のタイルや、解体時に現れるコンクリートの削り跡をそのまま仕上げとして活用している。「取手の窓」では、抽象度の高い繊細なディテールを採用しながらも、その他では荒っぽい素材感を大事にし、地域文脈を継承した「取手の窓」のコンセプトを高める空間とした。

■建築概要
敷  地:茨城県取手市井野
設計期間:2014年7月~2014年9月
工  期:2014年10月~2015年2月
構造規模:RC 地上3階
延床面積:150㎡
施  工:株式会社住まい工房ナルシマ